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  • おいしい水 / Água de Beber

    おいしい水 / Água de Beber

    この楽曲は、1960年代初頭のボサノヴァ・ムーブメントが最高潮を迎えていた時期に誕生しました。曲名の「Água de Beber」は、直訳すると「飲むための水」という意味ですが、当時のブラジルの新首都ブラジリアの建設現場で、ジョビンとヴィニシウスが喉を潤すために冷たい水を求めた実体験がインスピレーションの源になったと言われています。単なる喉の渇きを癒やす水という意味以上に、愛を切望する心や、生命の源としての根源的な渇望を、透き通った水に例えて表現した叙情的な背景を持っています。

    アーティストの面では、やはり作曲者であるアントニオ・カルロス・ジョビンの類まれなるメロディセンスが光ります。彼はクラシックの高度な技法と、ブラジルの伝統的なリズムであるサンバを融合させ、洗練された「ボサノヴァ」というジャンルを確立した巨匠です。また、作詞を担当した外交官兼詩人のヴィニシウス・ヂ・モラエスは、日常の何気ない風景に深い哲学とエロティシズムを宿らせる天才でした。この曲の最も有名なバージョンの一つは、1965年にリリースされたアルバム『The Astrud Gilberto Album』に収録されたもので、アストラッド・ジルベルトのアンニュイで飾らない歌声が、曲の持つ都会的な切なさを完璧に引き立てています。

    音楽理論的な視点からこの曲を分析すると、まず耳に残るのは冒頭の印象的なスキャットと、非常に洗練されたコード進行です。マイナーキー(短調)を基調としながらも、ボサノヴァ特有のテンション・ノートと呼ばれる、基本の和音に少し「濁り」や「彩り」を加える音使いが多用されています。これにより、悲しいだけでなく、どこか心地よい憂いを含んだ響きが生まれています。リズム面では、サンバを簡略化したギターの刻みが、心臓の鼓動のような安心感を与えつつ、メロディがその拍子の裏を巧みに突いていくことで、浮遊感のある独特のスウィング感を生み出しているのが特徴です。

    この曲にまつわる面白いエピソードとして、ブラジリアの建設中にジョビンたちが宿泊していた場所の近くを流れていた水路の音が、あの流れるようなメロディのヒントになったという説があります。この楽曲はその後、ジャズやポップスのアーティストたちによって数え切れないほどカバーされ、ブラジル音楽の枠を超えた世界的なスタンダード・ナンバーとなりました。今では、カフェのBGMから本格的なジャズのステージまで、あらゆる場所で愛され続けており、音楽が持つ「普遍的な美しさ」の象徴といっても過言ではありません。

    主にDm9、G13、Cmaj9、Em7、A7などのコードを基本とした、洗練されたコード進行を持っています。キーはCメジャーまたはDmが一般的で、ジャズやボサノヴァ特有のテンションコード(9th、13th)が特徴。 

    主要なコード進行の例(キー:C/Am): 

    • セクション A: Dm9 – G13 – Cmaj9 – Em7 A7
    • セクション B: Dm9 – G13 – Cmaj9 – Cmaj9 

    弾き方のヒント: 

    • ボサノヴァの典型的なリズム(シンコペーション)で弾きます。
    • より本格的な響きにするために、テンションコード(例:Dm7cap D m 7𝐷𝑚7をDm9cap D m 9𝐷𝑚9、G7cap G 7𝐺7をG13cap G 13𝐺13)を多用します。
    • D7からDminへの内部的な動きや、E7(#9)のようなテンションノートを含むコードも頻繁に使用されます。