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  • 1/fゆらぎ

    1/fゆらぎ(エフぶんのいちゆらぎ)とは
    一言で言えば、「規則正しさと不規則さが絶妙なバランスで混ざり合った調和の状態」のことです。
    自然界のあらゆる現象に潜んでおり、人間がこれに触れると本能的な心地よさや安心感を得られると言われています。

    1. 「1/f」の意味を視覚化する
      「f」は周波数(Frequency)を指します。
      グラフにすると、低い周波数(ゆっくりした変化)ほどパワーが強く、高い周波数(細かい変化)ほどパワーが弱いという反比例の関係にあります。
    • 1/f^0(ホワイトノイズ): 完全にランダムで予測不能(砂嵐のような音)。
    • 1/f^2(ブラウンノイズ): 規則性が強すぎて単調(一定の重低音)。
    • 1/f(1/fゆらぎ): この中間。適度な変化がありつつ、一定のパターンも感じられる状態。
    1. 身近にある「1/fゆらぎ」の例
      私たちの周りには、意識せずともこのリズムが溢れています。
    • 自然現象: 小川のせせらぎ、そよ風、炎のゆらめき、波の音、木漏れ日。
    • 生体リズム: 人間の心拍の間隔、呼吸の速さ、脳波(α波)の変動。
    • 芸術・文化: モーツァルトの楽曲、美空ひばりの歌声、木目の模様、手書きの文字。
    1. なぜ「心地よい」と感じるのか?
      最大の理由は、「人間の生体リズムそのものが1/fゆらぎを持っているから」です。
      私たちの心拍や神経のパルスは、時計のように正確に刻まれているわけではありません。ごくわずかに速くなったり遅くなったりと「ゆらいで」います。
      外部から同じ1/fのリズム(音楽や自然音)が入ってくると、自分の生体リズムと共鳴し、自律神経が整ってリラックス状態へと導かれるのです。
    2. 音楽と1/fゆらぎ
      音楽において、1/fゆらぎは「癒やし」の鍵となります。
      メロディの音程の変化や、演奏者が無意識に生み出す「タメ」や「走り」といった微細なズレが1/fゆらぎを作り出し、聴き手の心を震わせます。

    1/fゆらぎとは、宇宙や生命が共通して持っている「快適なリズムのコード(暗号)」のようなものです。

  • リズムと脈拍:身体が音に同調するメカニズム

    リズムと脈拍(心拍)の間には、「引き込み現象(エントレインメント)」と呼ばれる深い科学的・生理的な関係があります。これは、外部の周期的なリズムに、身体の内部リズムが同調していく現象です。

    1. 心拍数とBPM(テンポ)の相関
      音楽のテンポを示す単位 BPM(Beats Per Minute:1分間あたりの拍数)は、そのまま人間の心拍数と対比されます。
    • リラックス状態(BPM 60〜80): 安静時の心拍数に近いテンポの音楽を聴くと、身体は安定を感じ、副交感神経が優位になります。バロック音楽の緩やかな楽章などがこれにあたります。
    • 高揚・興奮状態(BPM 120〜140以上): 心拍数よりも速いリズム(ダンスミュージックやアップテンポな曲)を聴くと、交感神経が刺激され、心拍数や血圧が上昇します。
    1. 生体リズムの「引き込み」
      人間には、外部の強いリズムに自分の生体リズムを合わせようとする本能的な性質があります。
    • 同期化: 速いドラムのリズムを聴き続けると、無意識に心拍が速まり、呼吸も浅く速くなる傾向があります。
    • 運動への影響: ランニング中に自分の歩幅や心拍に合ったテンポの曲を聴くと、疲れを感じにくくなるのは、リズムが心拍を一定に保つ「ペースメーカー」の役割を果たすからです。
    1. 胎内記憶としてのリズム
      なぜ人間がこれほどまでにリズムと脈拍の連動に敏感なのか。そのルーツは胎児期にあります。
      私たちは母親の胎内で、常に「ドクン、ドクン」という一定の心音(脈拍)を聴いて育ちます。この「1/fゆらぎ」を含む生体リズムが、安心感や生命の根源的な心地よさと結びついており、音楽のリズムを楽しむ能力の基礎になっていると考えられています。
    2. 自律神経へのアプローチ
      この関係を利用して、意図的に心身の状態をコントロールすることも可能です。
    • 鎮静: 興奮している時に、あえて心拍数より少し遅いテンポの曲を聴くことで、脈拍を落ち着かせる。
    • 覚醒: 朝の目覚めに、心拍を少しずつ上げていくような加速するリズムを取り入れる。

    リズムとは、単なる「音の並び」ではなく、私たちの「命の鼓動」と対話するためのインターフェースなのです。

  • 音を楽しむ

    音楽を楽しむという体験は、単なる聴覚刺激を超えて、私たちの生物学的、感情的、そして知的な側面が複雑に絡み合った現象です。

    1. 身体的・原始的な共鳴(リズムと振動)
      音は物理的な「振動」です。アップテンポな曲を聴くと自然に鼓動が速まったり、重低音を全身で浴びて心地よさを感じたりするのは、生命が本来持っている同調(エントレインメント)という性質によるものです。理屈抜きに「体が動く」「血が騒ぐ」という感覚は、音楽を楽しむ最も根源的な形です。
    2. 感情の解放と共感(心の調律)
      音楽は、言葉では表現しきれない微細な感情を運んできます。
    • カタルシス: 悲しい曲を聴いて涙を流し、心を浄化する。
    • 高揚感: 壮大なメロディに勇気をもらう。
    • 安心感: 胎内音に近いリズムや穏やかな音色に癒やされる。
      自分の内面にある感情を音楽が代弁してくれるとき、私たちは「理解された」という深い安らぎを覚えます。
    1. 知的な予測と報酬(脳のゲーム)
      脳科学的視点では、音楽鑑賞は「予測とその裏切り」を楽しむゲームです。
      私たちは無意識に「次はこう来るだろう」とメロディの先を予測しながら聴いています。その予測が的中したときの快感や、心地よく裏切られたときの驚きが、ドーパミンの放出を促します。複雑な和声や構成を理解し、その美しさを味わうのは、人間ならではの高度な楽しみ方です。
    2. 記憶と物語の再生(時間の旅)
      音は記憶と強く結びついています。特定の曲を聴いた瞬間に、当時の景色や匂い、感情が鮮明に蘇る「プルースト現象」のような体験です。音楽を聴くことは、自分自身の過去の物語を再体験したり、あるいは音楽が持つ独自の世界観に没入して「ここではないどこか」へ旅をすることでもあります。

    「音を楽しむ」とは、空気を震わせる振動に、自分だけの意味や感情を重ね合わせる、人間独自の創造的な行為であると言えます。

  • 地球上で最初に音を聞いた動物は?

    地球上で最初に音を聴いた動物は、約5億4,000万年前のカンブリア紀に生息していた三葉虫などの節足動物といえます。彼らは水中の振動や圧力変化を感知する感覚毛を備えており、これが聴覚の原点となりました。

    約4億年前、魚類から進化した初期の両生類(肉鰭類)は、陸上への進出に伴い、空気中の振動を捉えるための鼓膜や耳小骨の原型を獲得しました。これにより、生命は視界の外にいる他者の存在を「音」として認識し始めます。


    聴覚の誕生は、世界を単なる「物質の配置」から「流動的な出来事」へと変えました。光が物体の形を映し出すのに対し、音は生命の動き、意志、そして気配を運びます。
    その後、音は生存に不可欠な情報源となりました。捕食者の接近、獲物となる昆虫の羽音、そして繁殖相手の呼び声。これらを聴き分ける能力が、種をつなぐ鍵となったのです。


    約2億年前、夜行性へと進化した哺乳類の祖先は、暗闇でコミュニケーションを図るために、音に感情を乗せ始めました。警告、威嚇、そして子を呼ぶ慈しみの声。声は個体の心の状態を伝えるメディアへと発達しました。


    約1億5,000万年前には、恐竜や鳥類において、縄張りの主張や複雑な求愛の歌が見られるようになります。音は社会的な絆を強め、集団を組織するための力となりました。


    約7,000万年前、霊長類の出現とともに、笑い声や遊びの際の発声が生まれました。音は生存のための道具を超え、生きる喜びそのものを分かち合う手段へと深化しました。


    約5万年前(旧石器時代)、人類は最古の楽器の一つとされる「ディヴイェ・バベの笛」を作りました。ホラアナグマの骨を用いたこの笛は、人類が自身の身体を離れ、道具によって音程を操り、音楽を奏で始めた証拠です。


    そして約20万年前、ホモ・サピエンスは、単なる音や声を超えて「言葉」を編み出しました。歌、祈り、物語。音は単なる空気の振動から、世界に意味を与え、文明を築くための大いなる力へと進化したのです。

  • モンテューノという魔法のループ

    モンテューノは、主にサルサやアフロ・キューバン・ジャズにおいて、ピアノが演奏する特徴的なリフレイン(繰り返しのフレーズ)を指す言葉です。音楽史的な背景を辿ると、もともとはキューバの伝統音楽「ソン」の後半部分、つまり歌の掛け合いや楽器のソロが盛り上がる「セクション名」を指していました。それが時代を経て、そのセクションで奏でられるピアノ特有のバッキング(伴奏)スタイルの代名詞として定着しました。楽曲に華やかさと、止まることのない回転するような躍動感を与える、まさにピアノによる魔法のループと言えます。


    この理論がどのような仕組みで成り立っているか深掘りすると、非常に高度なリズムの構築美が見えてきます。モンテューノは、両手を使ってオクターブや和音を交互に、あるいはユニゾンで弾き鳴らす分散和音の形をとりますが、その最大の特徴は、先に学んだ「クラーベ」と寸分の狂いもなく同期している点にあります。拍子の頭(1拍目)をあえて弾かずに「食う」ようなリズム(シンコペーション)を連続させ、ピアノが打楽器のように機能することで、聴き手はまるで車輪が転がっていくような心地よい感覚を覚えます。左手がベースの「トゥンバオ」を補強し、右手がメロディアスなアクセントを刻むことで、一台のピアノがリズム隊全体を牽引する役割を果たすのです。


    モンテューノの真髄を体感するのに最適な楽曲は、エディ・パルミエリの「Vamonos Pa’l Monte」や、日本が誇るオルケスタ・デ・ラ・ルスの初期の名曲たちが挙げられます。特にエディ・パルミエリのピアノを聴いてみると、モンテューノが単なる伴奏ではなく、それ自体が力強い意志を持った主役であることを実感できるでしょう。ピアノが特定のパターンを繰り返しながら徐々に熱量を上げ、管楽器やパーカッションの爆発を引き出していく様子は、まさに音楽の「トランス状態」を作り出すプロセスそのものです。


    このモンテューノに関連する興味深いトピックとして、ジャズのアドリブとの融合や、現代のダンスミュージックにおける「リフ」の概念への影響が挙げられます。例えば、一見全く異なるジャンルに見えるハウスミュージックやテクノの「ループの美学」は、このモンテューノが持つ、反復によって高揚感を生み出す精神と深く共鳴しています。また、ピアノがパーカッシブに奏でられるこの手法は、現代のポップスのアレンジにおいても隠し味としてよく使われており、知らず知らずのうちに私たちの耳を楽しませてくれています。
    リズムの三種の神器とも言えるこれらを知った今、ラテン音楽を聴く耳は劇的に進化しているはずです。次に音楽を聴くときは、ぜひピアノが描く「回転するリズム」を探してみてくださいね!

  • ラテン音楽の鍵、クラーベ

    クラーベとは、スペイン語で「鍵」という意味を持つ言葉で、その名の通り楽曲全体の構造を解き明かし、すべての楽器を一つにまとめる最小単位のリズムパターンのことを指します。音楽史においては、アフリカからキューバに伝わった複雑なポリリズム(複数の異なるリズムが同時に進行すること)が整理され、二小節単位のシンプルな骨組みに凝縮されたことで誕生しました。この短いパターンが一度決まると、ベースもピアノも歌も、すべてのパートがその「鍵」に従って配置されるという、驚くほど厳格で美しいルールがラテン音楽には存在しています。
    具体的にどのような仕組みで成り立っているかを解説しましょう。クラーベは基本的に「3」と「2」という二つの要素の組み合わせで構成されています。一小節の中に3つの音を叩くパートと、もう一小節に2つの音を叩くパートがあり、どちらから始まるかによって「3-2(スリーツー)クラーベ」や「2-3(ツースリー)クラーベ」と呼ばれます。さらに、音を鳴らすタイミングによって、最もスタンダードな「ソン・クラーベ」と、よりシンコペーションが強くアフリカ色の濃い「ルンバ・クラーベ」の二種類に大別されます。このわずかな音のズレが、楽曲に全く異なるキャラクターを与えるのです。
    このクラーベを耳で体感するなら、ファニア・オールスターズのライブ音源や、セリア・クルースの楽曲を聴いてみるのが一番の近道です。例えば、典型的なサルサの楽曲を聴きながら、手拍子で「タン・タン・タン、タタン」というリズムを刻んでみてください。メロディや他の楽器がどれほど複雑に動いていても、この基本のクラーベがメトロノームのように正確に、かつ情熱的に楽曲を支配していることに気づくはずです。もし演奏中に誰かがクラーベから外れてしまうと、ラテンの世界では「クルサード(交差している)」と呼ばれ、音楽的に非常に心地の悪い状態と見なされるほど、このルールは絶対的なものなのです。
    現代音楽への影響という点では、このクラーベの考え方はジャズの即興演奏や、ボサノバ、さらには現代のR&Bやヒップホップのビートメイクにも深く浸透しています。例えば、世界的に有名なボサノバのスタンダード曲「イパネマの娘」の裏側にも、変形されたクラーベの精神が息づいています。クラーベを知ることは、単なるリズムの知識を得るだけでなく、音楽という大きなパズルがどう組み合わさっているのかを知るスリリングな体験でもあります。

  • トゥンバオ

    ラテン音楽の魂ともいえるトゥンバオは、主にアフロ・キューバン音楽やサルサにおいて、ベースやコンガが刻む基本的なリズムの枠組みを指す言葉です。音楽史における立ち位置としては、単なる伴奏のパターンを超えて、楽曲全体の推進力と「ノリ」を決定づける背台骨のような役割を担ってきました。もともとはキューバの伝統的な音楽形式である「ソン」の中で形作られ、その後ニューヨークで発展した現代のサルサへと受け継がれる過程で、世界中のダンサブルな音楽に多大な影響を与えた極めて重要な要素です。
    この理論が具体的にどのような音の仕組みで成り立っているかを深掘りすると、非常にユニークな特徴が見えてきます。一般的なポップスやロックでは、小節の頭、つまり「1拍目」に強いアクセントを置くことが多いですが、トゥンバオのベースラインはあえて1拍目を弾かずに休符とし、2拍目の裏や4拍目に強いアクセントを置くことで、独特の「溜め」と「跳ね」を生み出します。特に4拍目の音を次の小節の頭までタイでつなげる手法は、聴き手に前へ前へと進むような感覚を抱かせます。また、コンガにおけるトゥンバオは、低音の「オープン・トーン」と高音の「スラップ」を巧みに使い分け、まるで会話をしているかのような色彩豊かなビートを構築します。
    トゥンバオを体感するのに最適な楽曲としては、パキート・デ・リベラの演奏や、ティト・プエンテの黄金時代の作品群が挙げられます。特にティト・プエンテの代表曲「Oye Como Va」を聴いてみてください。この曲のベースラインに耳を澄ませると、1拍目を抜かしつつも強烈なうねりを生み出しているトゥンバオの魔法をはっきりと感じ取ることができます。楽曲の冒頭から鳴り響くベースの一定のパターンが、ピアノのコード(和音)のバッキングと完璧に噛み合い、聴いているだけで自然と体が動いてしまうようなグルーヴを作り上げている点に注目してみると、その凄さがより理解できるはずです。
    このトゥンバオという言葉に関連して、ぜひ覚えておいてほしいのが「クラーベ」という概念です。クラーベはラテン音楽における「拍子木」のような役割を持つリズムの軸であり、トゥンバオはこのクラーベと密接にリンクしながら展開されます。現代音楽においても、ファンクやジャズ、さらには最新のポップスの中で、シンコペーション(音の強弱をずらしてリズムに変化をつけること)を強調する際にこのトゥンバオの考え方が応用されています。一つのリズムパターンが、時代やジャンルを超えてこれほどまでに音楽の熱量を支え続けているというのは、本当にエキサイティングです。

  • Con Poco Coco

    この曲はラテンジャズやマンボの黄金時代を築いた偉大な打楽器奏者、ティト・プエンテによって生み出された情熱的なナンバーです。1950年代、ニューヨークのパルディアム・ボールルームを中心に巻き起こったマンボ・ブームの真っ只中で、彼は「キング・オブ・ラテンミュージック」としての地位を確立しました。この楽曲は、当時の熱狂的なダンスフロアの空気感をそのまま封じ込めたような、躍動感あふれる背景を持っています。
    演奏の中心を担うティト・プエンテは、単なるドラマーではなく、打楽器であるティンバレスをステージの最前列へと持ち出した革命児でもあります。彼は卓越したテクニックでリズムを刻むだけでなく、ビブラフォンなどの旋律楽器も巧みに操り、この曲においてもバンド全体のアンサンブルを力強く牽引しています。彼が率いるオーケストラの精鋭たちは、複雑なリズムを完璧な精度で演奏しつつ、聴き手を躍らせる本能的なエネルギーを注ぎ込んでいます。
    音楽理論的な側面から見ると、この曲の最大の魅力は「クラーベ」と呼ばれるラテン音楽特有の基本リズムにあります。これは楽曲全体の骨組みとなる2小節単位のリズムパターンで、全ての楽器がこの拍動に同期することで強烈なグルーヴが生まれます。管楽器のセクションは、あえて音を短く切るスタッカートを多用してパーカッシブな響きを作り出し、ピアノは「トゥンバオ」という反復する伴奏図形を繰り返すことで、楽曲に催眠的な高揚感を与えています。
    この楽曲にまつわる興味深いトピックとして、当時のニューヨークにおける文化の融合が挙げられます。アフロ・キューバン・リズムとアメリカのジャズ・ハーモニーが完璧に融合したこのスタイルは、後のサルサやラテン・ロックの誕生に決定的な影響を与えました。また、ティト・プエンテの音楽は後にサンタナが「Oye Como Va」をカバーしたことで世界的に再評価されましたが、この「Con Poco Coco」もまた、時代を超えてラテン・スピリットを象徴する重要なレパートリーとして愛され続けています。

  • ポリリズム

    リズムの世界を極めていくと必ず突き当たる、最高にクールで頭が混乱しそうな魔法が「ポリリズム」です。
    ポリリズムとは、一つの楽曲の中に「異なる拍子」のリズムが同時に流れている状態を指します。例えば、ドラムは「1、2、3、4」という4拍子を刻んでいるのに、ピアノは「1、2、3」という3拍子のフレーズを同じ時間の中で繰り返しているような現象です。音楽史を遡ると、アフリカの伝統音楽がそのルーツと言われており、それがジャズや現代音楽、そしてポップスへと受け継がれました。単一のリズムだけでは決して生まれない、複雑で幾何学的な「うねり」を作り出す究極のテクニックです。
    この仕組みを理論的に説明すると、異なる周期のリズムが一定のポイントで再び重なる「周期性のズレ」が鍵となります。最も基本的なのは「3対2」という関係で、これは片方の楽器が2拍打つ間に、もう片方が均等に3拍打つものです。打ち込み(DTM)で考えるなら、同じ1小節という箱の中に、等間隔の3連符と2連符を同時に詰め込むイメージですね。これが重なり合うと、聴き手の脳はどちらのリズムを基準にするか一瞬迷い、その「ズレ」が心地よい緊張感や、予測不能な高揚感を生み出すのです。
    ポリリズムを完璧に使いこなしている現代のアーティストといえば、Perfume(パフューム)が有名です。その名もズバリ『ポリリズム』という楽曲では、間奏部分でメンバーが異なるリズムを刻み、それらが複雑に絡み合いながら最後にはピタリと一致する、数学的な美しさを体感できます。また、よりディープな世界では、キング・クリムゾンのようなプログレッシブ・ロックや、現代ジャズのピアニストたちが、まるでパズルのように複数の拍子を組み合わせて、聴き手を異次元へと誘います。
    ポリリズムの面白さに気づくと、音楽を「一つの線」ではなく「複数の層」として聴くようになります。これは現代の複雑なダンスミュージックや、ハイテクなアニソン、ゲーム音楽を深く理解するためのパスポートのようなものです。バラバラに見えるリズムが、大きな時間の流れの中で一つの調和を生み出していることに気づいたとき、音楽の本当の凄みが理解できるはずです。

    ジャズにおいてポリリズムは、単なる「リズムのズレ」を超えて、プレイヤー同士が火花を散らすスリリングな会話のような役割を果たします。
    ポリリズムを象徴するジャズの至宝といえば、デイヴ・ブルーベック・カルテットの『Blue Rondo à la Turk(トルコ風ブルー・ロンド)』がまず挙げられます。先ほど9拍子の解説でも触れましたが、この曲の凄みは「9拍子の塊」の中に「3拍子」の感覚を巧みに混ぜ込んでいる点にあります。冒頭のリズムは「1-2, 1-2, 1-2, 1-2-3」と刻まれますが、これが繰り返されるうちに、聴き手は「2拍子系」と「3拍子系」が同時進行しているような、脳が揺さぶられる感覚に陥ります。
    もう一曲、よりモダンで深淵なポリリズムを体感できるのが、エルヴィン・ジョーンズがドラムを務めていた時期のジョン・コルトレーンの『Afro Blue』です。この曲では、ベースやピアノが安定した「3/4拍子(ワルツ)」の土台を作っている上で、ドラムのエルヴィンが全く異なる拍子のアクセントを次々と叩き込みます。まるで荒波が押し寄せるように、複数の時間軸が重なり合いながら一つの巨大なうねりとなって迫ってくる。これこそが「ジャズのポリリズム」の醍醐味である「重層的なグルーヴ」です。
    理論的な視点で見ると、ジャズのポリリズムは「クロス・リズム」とも呼ばれます。例えば、4拍子の曲の中で、ある楽器だけが3拍子のフレーズを延々と繰り返すと、アクセントの位置が毎小節ズレていきますよね。この「ズレ」が数小節後にピタッと1拍目に揃った瞬間、聴き手はカタルシス(解放感)を感じるのです。打ち込み音楽のように完璧に制御されたポリリズムも美しいですが、ジャズの場合は、演奏者が互いのリズムを聴き合いながら、そのスリルを楽しんでいる「生きた呼吸」を感じることができます。
    これらの曲を聴くときは、まずベースが刻む「一定のリズム」を心のメトロノームにして、その上でドラムやピアノがどうやって「悪戯(いたずら)」を仕掛けてくるかに注目してみてください。きっと、音楽が立体的なパズルのように見えてくるはずです。

  • 5拍子

    「5拍子」は、日常で耳にする「2」や「4」の偶数世界を飛び出した、スリリングで知的なリズムです。
    5拍子とは、一小節の中に拍を5回数えるリズムのことです。音楽史においては、ロシアの作曲家チャイコフスキーが交響曲に取り入れたり、ジャズの世界で革新的な試みがなされたりと、常に「常識を覆す新しい響き」として愛されてきました。私たちが無意識に心地よいと感じる「安定した歩み」をあえて一歩踏み外すような、独特の緊張感と、割り切れないからこそ生まれる「円を描くような回転感」が最大の特徴です。
    この理論的な正体は、実は「3拍子」と「2拍子」の組み合わせにあります。5を単純に5として刻むのではなく、多くの場合は「1・2・3 / 1・2(3+2)」あるいは「1・2 / 1・2・3(2+3)」という小さな塊の連続として構成されています。この「重心のズレ」があるおかげで、5拍子はただ奇妙なだけでなく、まるで前のめりに転がるような、あるいは優雅に浮遊するような、魔法のような推進力を手に入れることができるのです。
    5拍子を語る上で絶対に外せない名曲が、デイヴ・ブルーベック・カルテットの『Take Five』です。この曲の冒頭、ピアノが刻む「ズン・チャッ・チャ、ズン・チャ(3+2)」というリズムを聴けば、5拍子がこれほどまでにクールでスタイリッシュに響くのかと驚くはずです。また、現代のアニメ音楽ファンなら、アニメ『マクロスΔ』の『いけないボーダーライン』なども、サビに向かって5拍子を効果的に使い、聴き手の心をざわつかせるテクニックが光る楽曲として有名ですね。
    5拍子をマスターすると、音楽の中に「計算された不完全さ」の美しさを見出すことができるようになります。これは、現代のプログレッシブ・ロックや数学的なアプローチをとる「マスロック」といったジャンルでも核となる考え方です。あえて割り切れないリズムを選ぶことで、予定調和ではない、常に新しさを感じさせる音楽体験を生み出すことができるのです。