この楽曲の歴史は意外にも複雑で、1935年にベルト・カルマール、ハリー・ルビー、オスカー・ハマースタイン2世という巨匠たちによって「Moonlight on the Meadow(草原の月明かり)」というタイトルで書かれたのが始まりでした。しかし、当初は日の目を見ることがなく、その後歌詞を改めて1951年の映画『ストリップ(The Strip)』のために作り直されたことで、ようやく現在の姿として世に送り出されました。時代を超えて形を変えながら、最終的に私たちの知る美しいバラードへと昇華された背景には、職人たちの執念のようなものを感じずにはいられません。
この楽曲は、1976年に発表されたスティーヴィー・ワンダーの金字塔的アルバム『Songs in the Key of Life(キー・オブ・ライフ)』に収録されています。当時のスティーヴィーは、自身のクリエイティビティが最高潮に達していた「黄金時代」の真っ只中にありました。この曲が作られた大きな動機は、1974年に亡くなったジャズ界の巨匠、デューク・エリントンへの追悼と敬意です。スティーヴィーは、自分に多大な影響を与えた偉大な音楽家たちが次々と世を去っていく中で、彼らの功績を称え、音楽がいかに人々の人生を豊かにするかを証明するためにこの曲を書き上げました。
また、サビで繰り返される「You can feel it all over(体中で感じることができるだろう)」というフレーズは、単に音が聞こえるということではなく、リズムやメロディが魂に直接訴えかけ、幸福感で満たしてくれる体験を指しています。スティーヴィーはこの曲を通じて、たとえ愛する先人たちがこの世を去ったとしても、彼らが残した音楽のバイブレーション(振動)は永遠に消えることなく、私たちの心の中で踊り続けるのだというポジティブな死生観を提示しました。