映画「The United States vs. Billie Holiday」は、伝説的なジャズシンガー、ビリー・ホリデイが、彼女の代表曲である「奇妙な果実（Strange Fruit）」を巡ってアメリカ合衆国政府と対立した実話に基づいた作品だ。人種差別の現実を告発するこの曲が、公民権運動に与える影響を恐れた政府、特に連邦麻薬取締局が、ビリーを麻薬使用の罪で追い込もうとした知られざる戦いを描いている。
物語は、1940年代、人種差別が公然と行われていた時代のアメリカが舞台だ。ビリー・ホリデイは、その圧倒的な歌声で人々を魅了する一方で、人種差別撤廃を訴える「奇妙な果実」を歌い続けることで、政府の監視下に置かれることになる。連邦麻薬取締局長官のアンスリンガーは、彼女のキャリアを潰すべく、黒人捜査官ジミー・フレッチャーをおとり捜査で送り込む。
しかし、ジミーはビリーと接するうちに、彼女の人間性や歌に込められたメッセージに心を揺さぶられ、葛藤する。映画は、ビリーの音楽への情熱、ドラッグ依存との闘い、そして政府からの執拗な圧力に屈することなく歌い続けた彼女の壮絶な人生を、リアリティたっぷりに描き出す。
グラミー賞ノミネート歌手であるアンドラ・デイがビリー・ホリデイを演じ、その圧倒的な歌唱力と演技力で高く評価され、ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞、アカデミー賞にもノミネートされた。リー・ダニエルズ監督がメガホンを取り、単なる伝記映画に終わらない、社会派ドラマとしての側面も強く打ち出している。この作品は、一人のアーティストが権力に立ち向かい、その歌声で時代を動かそうとした、勇気と悲しみに満ちた物語なのである。
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